兵庫県南西部のとある町の噂

私の生まれは兵庫県南西部のとある町です。姫路や赤穂などの有名どころとは程遠い、有名なものなど何もない山と田んぼばかりの町です。私の住んでいた家も一応は住宅地にあるのですが、すぐ横が見渡す限りの田んぼという場所でした。ただこの住宅地には特に怖い謂れはなく(母親は昔、猟奇的な殺人事件があったとは言っていましたが詳しくは知らないようです)、舞台となるのは私が通っていた小学校です。


小学校の怖い話というのはありがちですが、私の通っていた小学校と言うのがより怖いのは、本当に山の中にあったことです。山を削って作られた学校で、校門まで長い坂道があり、校舎とグラウンドは完全に山に囲まれていました。一番近い家は坂を下りてすぐのところに一軒だけ、次に近い家となると更に道を400mほど進んだ古い集落となります。私の家からは子供の徒歩で二十分から三十分くらいかかりました。なので、子供心に随分と寂しい場所にあるんだなあ、と思っていました。また、非常に古い学校で、私が入学した年に創立百周年を迎えました。ただ、木造ではなくコンクリートのがっしりした校舎でしたが。


そんな学校でしたので、もちろん七不思議のような階段話もたくさんありました。幾つかはよくある七不思議でしたが、山奥の学校ならではのものとしては、洞窟から這い出る痩せた幽霊というものがありました。この学校には山奥ならではの立地を活かした樹々にロープを吊るしたりハンモックをぶら下げたりという遊び場があるのですが、その遊び場の隅っこに小さな洞窟がありました。草木に覆われていてマムシも出るということで誰も近づかないのですが、そこから夜な夜なやせ細った幽霊が出てくるというのです。今思えばあの洞窟は防空壕だったのではないかな、と思っています。あの学校の周りは戦時中疎開先になっていた、という話を聞いた事があるからです。そして学校の坂を下りたすぐそばには墓地があり幽霊が連想しやすい場所でもありました。戦時中の食糧難などの話と混ざって、痩せた幽霊という話が出来上がり、それが洞窟(防空壕)から出てくる、となったのではないかな、と考えています。


これが他の学校では見ない私の通っていた小学校ならではの怪談で、残りは理科室で動く骸骨だとか、音楽室のベートーベンの眼が光るだとかありきたりの物なのですが、実は謂れも良く分からない怪談が一つだけあります。それは配水管の中で眼を光らせている亀の死体というものなのです。校門までの坂道には、校舎などに溜まった雨水を出すための配管がたくさんつき出しています。その中の一つに、亀の死体が入っており眼がずっと光っている、と。ただ、その亀が一体なんなのか、何故そんなところにいるのか、どうして眼を光らせているのか、何か呪いのようなものでもあるのか等の詳しいことはまるで分かっていません。

一度、帰り際に男の子達が、この配水管の中に亀がいるんだ、と騒いで配水管に棒を突っ込んでいたことがあります。その配水管の中を覗いてみたのですが、特に何かがいるようには見えなかったし、光っているらしい眼も見えませんでした。結局それっきりで亀の正体はさっぱりわかりません。怪談とはそういうものだ、と言われてしまえばそうなのですが。

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